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古代チーズでカクテル … バー「アンカー(ANCHOR)」(呉市・呉)

古代チーズでカクテル


 ジンギスカン焼きの「關白(かんぱく)」で夕食を食べた帰り道、トコトコと家に向かっていると、ビルの2階に錨(いかり)の看板が見えます。ふーん。バー「アンカー」ですか。錨に引かれて、ちょっと入ってみましょうね。

 階段を上っていくと、入口横にTODAY'S SPECIALと書かれた黒板メニューが出ていて、季節のフルーツカクテル(苺、金柑、キウイ、etc.)、「お酢」のカクテル(ハニー黒酢 or ベリー紅酢)、ホットカクテル各種(コーヒー、紅茶、etc.)という3種のカクテルが書き出されています。フムフム。これは本格的なバーに違いない。

 よいしょ、っと扉を開けると、入口右手にカウンター席、左手にボックス席がひとつ。カウンターの中には男性がひとり。この人が店主のようです。先客は、カウンター席に男性ばかり4人(二人連れひと組と、それぞれひとり客が二人)、それぞれ間をあけて座っています。

「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ」

 とその真ん中あたりの席を指し示してくれます。

 その席に座り、さっそく表の黒板に出ていた「お酢」のカクテルを、店主が「目にいいらしいですよ」と進めてくれたベリー紅酢のほうでいただきます。「お酢」のカクテルは、キンキンに冷えたゴードン(ジン)をベースに、紅酢を入れて、最後にトニック・ウォーターを注いでできあがり。お酢の入ったジン・トニックって感じなのですが、お酢がやわらかい味わいで、とてもおいしい。

 カウンターの一番奥に座っている男性は、私と逆に、明日、月曜日から東京に転勤するんだそうで、今日が呉で最後の夜なんだそうです。

「マスター。『春の別れ』というテーマで、なにかウイスキーを飲ませてよ」

 とリクエストするそのお客さん。ちょっと考えた店主は、グレンモレンジをスッと出しました。

「グレンモレンジはバーボン樽で熟成させるんですが、そのバーボン樽そのものもグレンモレンジで作ってアメリカに送るんです。それでバーボンを造ってもらい、造り終わったらまた戻してもらって、それで自社のスコッチを熟成させるんですね」と店主。

「それは、俺にも戻って来いってこと」とうれしそうに微笑むお客さん。うーん。いい話だ。

 日曜日だから、もう1杯で終わりにしましょう。「お酢」のカクテルがジンベースだったから、最後もジンかな。

「マティーニをお願いします」

「はい」と返事したマスター。そのままゴードンで作るかと思いきや、ゴードンは冷凍庫に戻して、同じ冷凍庫から改めてタンカレー(ジン)を取り出します。

「定番ですが、やはりマティーニはこれで…」

 と言いながら、慣れた手つきでクルクルとステアしてマティーニを仕上げてくれます。

 あぁ~。うまいっ。このマティーニもおいしいなあ。

「珍しいものがあるので、少しずつですけど食べてみてください」

 そういいながら店主が出してくれたのは、チーズのような、落雁(らくがん)のような。少しだけ齧ってみると、ちょっと甘みのある、濃厚なミルクの風味。

「これは『飛鳥の蘇(そ)』という、古代チーズなんです。何十リットルもの牛乳を使って、ほんのちょっとの蘇ができるんだそうです」

 と説明してくれる店主。なるほど。そう言われてみれば、生キャラメルの甘みを取って、もっと煮詰めていったような味わいだ。これは赤ワインにも合うかもね。

 濃厚な蘇をつまみに、マティーニを飲み干して、お勘定をお願いすると、海外のレストランでよく出てくるような、二つ折りになったレシートケースでお勘定が出されます。二つ折りを開いてみると、カクテルが900円×2杯、テーブルチャージが500円、合計2,300円と極めて明朗にお勘定が書き出されています。

「どうもごちそうさま。今度はゆっくりと飲めるときにきますね」

 笑顔の店主に見送られながら店を後にしたのでした。

店情報

《平成22(2010)年4月4日(日)の記録》

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受信: 2010.07.27 11:17

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