〔この一品〕 野毛「武蔵屋」のきぬかつぎ
野毛の「武蔵屋」というと、年中変わらぬ5品の肴(玉ねぎ酢漬け、おから、たら豆腐、納豆、お新香)が有名ですが、実はそれ以外にも何品かの肴が用意されていて、1品400円で追加注文することができます。
なかでも、きぬかつぎは、ほぼいつもカウンター上段中央部の大きな器にこんもりと積み上げられていて、お客の少ない雨の日などは、
「天候の悪い中を、よくいらしてくださいました」
と、ちょっとずつサービスで出してくれたりもしますので、「武蔵屋」に通うお客さんにとっては、定番の5品の次になじみが深い肴ではないかと思います。
きぬかつぎは、小さな里芋を皮のまま蒸すか、ゆでるかしただけの一品。小芋の下側をつまんで、皮をギュッと絞るようにすると、厚い皮がくるりと剥(む)けて白い地肌が顔を見せます。
衣被(きぬかつぎ)というのは、平安時代に、女性が顔を隠すために被(かぶ)った小袖(こそで)のことなんだそうです。皮の中から、白いお芋が顔を出す様子が似ているので、この里芋料理もきぬかつぎと呼ばれるようになったんでしょうね。
くるりと皮が剥けたきぬかつぎは、ちょっと塩をつけて食べるだけというシンプルなもの。「武蔵屋」では、この塩に、呉・蒲刈(かまがり)島の「海人の藻塩(あまびとのもしお)」という、昔ながらの製法で作った塩を使っています。
ねっとりとした食感と、ほんわりと甘い山芋の味わいに、櫻正宗の燗酒がよく合います。
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