3月末日をもって閉店 … おでん「あわもり」(呉・新広)
「実は3月末でお店を閉めようと思ってるんですよ」
えっ! ついにそういう日がやってきましたか。
昭和28(1953)年の創業以来、57年間、おでんひと筋でやってきた「あわもり」。
私がはじめてこの店にやって来たのは昭和58(1983)年なので、その当時でも創業30年の老舗酒場でした。当時は私も20代半ばで、こんな風にカウンターだけの酒場というのも(スナック以外では)初めての経験。毎日のようにひとりでやって来ては、おでんを数本つまみながら、泡盛をクイッとひっかけて何百円かのお勘定でスッと帰っていく大人たちの姿に、驚くとともに、なんとも言えぬ憧れの気持ちを抱いたものでした。
今にして思えば、この店が私にとっての“大衆酒場”の原点的な存在なんですね。
ここで、サッと飲んでスッと帰るという、“大衆酒場”の過ごし方を覚え、さらにはカワ(豚の皮)やキモ(牛の肺)といった、それまで口にしたことがなかった“もつ”の美味しさにも目覚めた。スケールははるかに違うものの、ブッダにとっての菩提樹のような場所が、私にとっての「あわもり」なのかもしれないなぁ。(ちょっと大げさか?!)
店主ご夫妻には娘さんがいらっしゃいますが、もとから「娘が嫁に行くまで」ということでお店をやってきていて、娘さんに跡を継いでもらおうという気持ちはなかったんだそうです。
「たいへんな商売じゃけえねえ」
しみじみとそう話してくれるお母さん。
朝早くから仕入れと仕込みをして、夕方から夜まで営業。片付けを終えるともう深夜になって、ちょっと寝るとすぐ朝がやってくる。ご夫婦ともに昔かたぎの人なので、定休日(日祝)以外にはめったなことでは休まない。さらには、みんなが毎日のように飲みに来れるように、値段も低く抑えているので、儲けもとても少ない。地元の人たちに大人気の「あわもり」であっても、とても娘さんに引き継いでくれと言える状態ではないんだそうです。
「もうやめよう、もうやめようと思いよったけえ、値段もはぁ、何年もこのままじゃ。値段を上げると、せっかく覚えた計算が、またむずかしなるけえのぉ」
と笑うお父さん。この値段(おでんはすべて1本90円)だと、赤字になっている具材も多いんだそうです。
そこにもってきて、今年はお母さんがちょっと足を悪くされて、ずっと立っている仕事も大変になってきた。そこで、これを機会にと閉店の決心を固められたとのこと。
「ヨレヨレになってからやめるんじゃなしに、元気なうちに少しは旅行なんかも楽しみたいけえね」とお母さん。7年ほど前に閉店した、鷺ノ宮の「鳥芳」の女将さんも同じようなことをおっしゃってました。
「あわもり」を継ぎたい、と言ってくれる人もいるそうなのですが、店主ご夫妻にとっては、ここはご自宅でもあるので、他人が1階で店をやっている(しかもそこは自分たちがずっとやってきた店である)というのは、あまり気が休まりそうにない。で、この際、思い切って閉店しようと決めたそうです。
自分にとって、“大衆酒場”の原点ともいうべき店が閉店してしまうのは、とても残念なことですが、4月に呉に転勤になり、最後の1年間だけでも、また行きつけの店として「あわもり」に通うことができたのは幸せなことでした。(まだ終わってませんが…。)
今宵は7時40分ごろ店に到着して、ゆっくりと泡盛の梅割り(160円)を3杯に、おでん(90円)が7本。私が最後の客となったところで、上のようなお話を聞かせていただいたのでした。
| 固定リンク
コメント
ほんとに名残惜しい名店ですよね。最近は閉店を聞いてあちこちたら駆けつけるお客さんで満席だとか。
浜田さんのように、ちゃんとお話をきける機会はもう…。
ほんとうに貴重な店です。
閉店までには私も必ず挨拶しにいきます。
投稿: yasuko | 2011.03.14 22:31