荷風をまねて丼で燗酒 … 田舎洋食「いせ屋(いせや)」(呉)
作家・永井荷風(ながい・かふう、1879~1959)は、その晩年、78歳のとき(1957年)に市川市八幡町に転居し、80歳(1959年)の3月、歩行困難になってからは自宅近くの「大黒家」という食堂で食事をとる以外は家に引きこもり、同年4月30日に亡くなりました。
その「大黒家」で、いつも注文していたのがカツ丼(並)と上新香、そして燗酒を1合。亡くなる前の日まで、これらを食べていたんだそうです。
(お新香と燗酒は明らかに合うけど、カツ丼と燗酒って、合うのかなあ?)
そう思いながらも、これまでの間、実際に試してみたことはなかったのでした。
「親子丼(700円)と、白牡丹(300円)のあったかいのをください」
「は~い。オヤコドンブリとオサケ」と、おかみさんから厨房の親父さんに注文が通されます。
待つことしばし。
「お酒はぬる燗でいいですか?」
と言いながら、おかみさんが徳利(とっくり)のお酒と、ガラスの猪口(ちょこ)、そしてお新香を持ってきてくれます。
そうそう。夏場だからぬる燗くらいがちょうどいいですよねぇ。しかも、ここのお新香(キュウリと大根)は、おばあさん(初代の奥さん)の代から3代続いたぬか床で漬けられた、自慢のお新香。これだけで、お酒の1合や2合、するっと飲めそうな一品です。
クイッと最初のひと口分の燗酒を口に含み、「ど~れどれ」とお新香に箸を伸ばしたところで、
「お待たせしました。親子丼です」
と、親父さんが厨房から直接、親子丼を持ってきてくれます。早っ! 料理の出が早いのが、ここ「いせ屋」の大きな特徴のひとつですもんね。
その親子丼の頭の部分を、ちびっとつまんでは、お酒をちびり。これはもちろん合いますよね。鶏肉が柔らかくてうまい。ごはんの部分はどうかな。
んん~っ。これもまたいいですねぇ。白いご飯ではなくて、親子丼ならではの醤油・味醂系の汁(つゆ)が染みたごはんが、燗酒によ~く合います。
な~るほど。こうなると、ごはんも肴(さかな)だ!
思わずもう1合! と言いたくなるところを、ぐっとガマンして、今日は荷風にならって、お酒は1合で。
お勘定は1,000円でした。この組み合わせ、いいなぁ。
ところで、永井荷風はカツ丼なのに、なぜ私は親子丼にしたかというと、ここ「いせ屋」では、平皿に盛ったごはんに、ひと口大に切り分けたビーフカツレツをのせて、それにデミグラスソースをかけた、いわゆるデミカツ丼(しかも牛肉)がカツ丼(1,100円)なのです。そこで、今回はより一般的なスタイルに近い親子丼で試してみたのでした。
今日は、昼食も「いせ屋」に来て、カレーうどん(500円)をいただいたのですが、このカレーうどんもまた非常に特徴的。ゆでた細うどんを平皿に盛り、それにカレールーをかけているのです。
カレーの具材は、わりと大きめに切った玉ねぎと、こま切れの薄い牛肉。しっかりとしたとろみが「いせ屋」のカレーの特徴です。
それほど辛くはないのに、けっして甘くはない。そしてまた量はそんなに多く見えないのに、食べ終わる頃には満腹になっている。そんな不思議なカレーうどんでした。二日酔いのときにも良さそうです。
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