三杯屋の奇跡、舞台に … 「武蔵屋(むさしや)」(桜木町)
横浜・野毛。
昭和の名残も、港の気配も残り少なくなったこの街に、
昭和21年から姿を変えず続いている、わずか七坪の居酒屋・武蔵屋。
看板もなく、肴は定番、出される酒も櫻正宗をコップに三杯まで。
それでも、その店は、いつも満員の客のにぎわいに満ちている。
なぜなら、そこには、
厳しくて優しい人と不思議なネコが待っているから……。
横浜夢座の公演情報に、そう書かれています。野毛の「武蔵屋」が、このたび舞台劇『野毛武蔵屋 三杯屋の奇跡』として公演されることになったのです。
おばちゃんこと、2代目店主・木村喜久代さんを演じるのは、横浜夢座を主宰する女優・五大路子さん。
公演は今週末、3月2日(金)から7日(水)までの6日間で、2日(金)、3日(土)、5日(月)は1日2公演ずつ行われるので、合計9公演が予定されています。千秋楽(7日(水))には、おばちゃんも舞台に招いて、90歳の誕生日をお祝いする予定というのも嬉しいではありませんか。
場所はみなとみらいのランドマークプラザ5階にある「ランドマークホール」。チケットは前売りならば一般5千円、学生は3千円。当日券はそれぞれ500円アップです。詳しくは公演情報をご確認ください。
横浜での仕事を終えて、久しぶりにやってきた「武蔵屋」は、金曜日の午後6時過ぎということもあるのか、店の外に5人ほどの行列ができている状態。私もその後ろに並んで、席が空くのを待っていると、行列の先頭2人はすぐに店内へ。
私のすぐ後ろにも人が並んだと思ったら、なんと「東京自由人日記」の小西さん、「疲れない日記」のビリーさん、そしてその酒友のMさん(女性)の3人。3人は5時ごろ「武蔵屋」に来たんだけど、すでに満員で入れず、先に「福田フライ」に寄ってから再挑戦されたんだそうです。
ちょっと待っていると席が空き、座敷の4人卓に一緒に座ることができました。
入口近くのテーブル席には、あでやかな和服姿の美人がひとり。この方がおばちゃん役の五大路子さんでした。
1杯目の桜正宗の燗酒とともに出されるのは、いつもと変わらぬ玉ネギの酢漬けに、おから。お客が入ってから作られるタラ豆腐は、少し遅れて出されます。基本的に作り置きで出される「武蔵屋」の定番メニュー5品の中で、唯一、その場で調理して出してくれるのが、このタラ豆腐。今のような冬場は、このタラ豆腐の温かさが染み渡ります。
今宵もやっぱり小さいおばさん(妹の富久子さん)の姿は見えません。おばちゃんに聞いてみると、お元気はお元気なんだけど、ひざの調子が悪くて立ち仕事はできないんだそうです。おばちゃんがもうすぐ90歳といういことは、二つ違いの妹さんも米寿を迎えるんですね。
2杯目の桜正宗には納豆。なんでもない納豆なんだけど、「武蔵屋」の納豆は美味しく感じるんですよねぇ。そもそも桜正宗だって、ここ「武蔵屋」で飲むと美味しくて仕方がない。店の雰囲気のなせる技なのでしょうか。まさに『三杯屋の奇跡』かもね。
午後7時ごろに、最初からいたお客さんたちが帰りはじめ、店内にも空席が出てきました。座敷席に空席ができると、「武蔵屋」に住みついている猫のクロが入ってきて、座布団の上でクルリと丸くなります。なぜわかるのかが不思議なのですが、いつもそう。そして、新たなお客が座敷に通されると、とても残念そうに起き上がって一時退避するのです。
この猫と初めて会った頃は、本当にちっちゃくてかわいい子猫だったのに、あれから7年。今やもう、まるで家主の風格。なにしろ『野毛武蔵屋 三杯屋の奇跡』のポスターにも描かれているほどですもんね。
3杯目と一緒に出される肴(さかな)はお新香。キュウリ、カブ、青菜の糠漬けやタクアンをそれぞれ2切れずつほど、小さなお皿に盛り合わせてくれます。
昔は3杯の酒で、ちょうどよく5品の肴を食べきるのが難しくて、いつも料理が余り気味でした。年とともに、お酒をゆっくりと飲むことができるようになったのか、それとも自分の中に「武蔵屋」のペースができあがってきたのか、ちょうど3杯で5品を食べ終えることができるようになりました。
そろそろ五大さんたちが引き上げるというので、「すみません」とお願いして、一緒に写真を撮らせていただいたのが冒頭の写真です。おばちゃんも一緒に入ってくれて、記念に残る1枚となりました。
3杯を飲み終えて、最後におばちゃんから1杯と、ちょっと大ぶりのお猪口に桜正宗を注いでくれました。それをキューッと飲み干して、お勘定はひとり2,200円ずつ。
やっぱり「武蔵屋」はいいなぁ。『野毛武蔵屋 三杯屋の奇跡』も見に行きたいなぁ。
おからと玉ねぎ酢漬け / たら豆腐 / おばちゃんから衣かつぎ
2杯目には納豆 / 3杯目はお新香 / おばちゃんからもう1杯
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コメント
これは知りませんでした。是非伺いたいと思います。武蔵屋は居酒屋の鏡です。
投稿: 小川洋一 | 2012.02.28 00:11