美味しい鯛に舌づつみ … 料理屋「灘(なだ)」(呉)
先日、“鯛そうめん”を食べたからか、今週は週明けからおいしい鯛が食べたくて食べたくて。瀬戸内の鯛はだいたい美味しいんだけど、その中でもより美味しいお店はどこだろうと考えていて、ふと1軒の店を思いつきました。
社内のグルメ・Uさんに教えてもらった料理屋「灘」です。
「ぜひ行ってみんさいや。いま呉で一番うまいと思うで。」
昨年末ごろにUさんにそう紹介されて、店の前までは何度か来たものの、電灯看板もなく、暖簾もないという超シンプルな店構えに、かえって敷居の高さを感じて、なかなか店内に足を踏み込めずにいたのでした。
しかしながら、Uさんがあれだけ進めてくれるこのお店。もしかすると美味しい鯛が食べられるんじゃないかという期待が、敷居の高い「灘」の引き戸を、やっと開けさせてくれました。
引き戸を開けて店に入ると、すぐそこがコート置き場と荷物置き場で、その奥が6席分の直線カウンター席。そのカウンター席の一番奥でカップルが飲んでいて、手前4つは空いているようです。
「ひとりです」と指を立てて申告しながら店内に入り、コートを脱いでいたら、「いらっしゃいませ」と店のおねえさんが出てきて、そのコートを受け取ってくれます。
「どこでもどうぞ」とカウンター席を示してくれるおねえさん。初めてでもあるので、一番手前の席に腰を下ろし、おしぼりを出してくれるおねえさんに、「熱燗をお願いします」と注文。
熱燗(あつかん)というのは、本来は、ぬる燗、日向燗(ひなたかん)などと並んで、燗酒(かんざけ)の温度状態を示す用語なのですが、酒どころ呉の呑兵衛たちは、普通の燗(=上燗)のことを“熱燗”と呼んでいるようで、酒場のメニューにも『日本酒 熱燗 / ひや』と書かれていることが多いのです。だから、熱いのが好きな人は「熱燗を熱めで」と注文したりします。
「お酒は剣菱、賀茂泉、亀齢のどれにしましょうか」とおねえさん。賀茂泉(かもいずみ)をお願いしました。
あらためてメニューを見てみると、普通のお酒のラインナップが先ほどの3種。それに加えて、全国各地の地酒や、広島の地酒が合わせて10種類ほど並んでいます。
店は40代の男性店主と、それを補佐する女性(奥の常連さんたちの会話では奥様ではない様子)、そしてアルバイトらしいとても若い女性の3人で切り盛り中。店に入ったときにはわかりませんでしたが、奥にも部屋があるようで、そちらにもグループ客が何組か入っているようです。カウンターだけの小さなお店なのかと思いきや、奥は意外に広いのかも!
燗はアルバイトのおねえさんが電子レンジでつけてくれます。このやり方だと失敗がなくていいですね。燗酒は、なんといってもちゃんとしたお燗番がいて、きっちりと湯煎(ゆせん)で燗をつけてくれるのが一番ですが、それができなくていい加減に湯煎で燗をつけるのであれば、むしろ電子レンジのほうが安定していていいんじゃないかと思います。
燗酒と一緒に持ってきてくれたお通しの小鉢は、サイコロ状に切った山芋の上に、とんぶりをトッピングしたもの。「味はついていますので、そのままお召し上がりください」と出してくれます。
日付入りで、毎日、筆で手書きされているらしき横長~いメニューは、「焼き物」「煮物」「酢の物」「創作料理」などに分かれていて、その数およそ70品。「造り」の一番最初に、欲しかった鯛が載っています。それも薄造りと、普通の造りの2種類。普通の造りのほうを注文しました。
調理はもっぱら店主が担当し、カウンター内のおねえさんはできあがった料理の盛り付けなどを行います。そしてそれを運んだり、飲み物の用意をしたりするのがアルバイトのおねえさんの仕事の様子。カウンター内の狭い厨房スペースを「通ります」「開けます」と声を掛けあいながら、3人がクルクルと動きます。
奥のグループ客の分も含めて、全員の料理をひとりでやっているにもかかわらず、ちょっとだけ待ったくらいで鯛の造りを出してくれました。
丸いお皿の4か所に、頭に近い部分を2切れ、尾に近い部分を2切れ、砂ずりの部分(腹の下のほう、マグロなら大トロ)を2切れ、そして砂ずりのちょっと上部らしき部分(マグロなら中トロ)を2切れと、歯ごたえと味わいの違う部分の刺身を2切れずつ、見るからにおいしそうに盛り付けてくれています。うっすらとした紅白の縞模様が実にきれいですねぇ!
まずまっ先に一番うまそうなところからいこうと、砂ずりの部分にワサビをのせて、ちょっと醤油をつけて口中へ。おぉ~っ。このしっかりとした弾力感はどうよ。そしてふわっと広がる上品な旨味。これぞ鯛という味わいです。
そこへ入ってきたのは、いかにも常連さんらしき、40代くらいの男性ひとり客。私の右を1席空けて、その向こうに座り、生ビールをもらって飲みながら、メニューの各ジャンルから1品ずつ、都合6品くらいを一気に注文する。すごいっ。
ちなみに、呉の小料理屋さんのメニューはだいたいそうなのですが、この店のメニューにも、値段はいっさい書かれていません。一品一品の料理は、いい素材を使っているうえに、きっちりと手間ひまもかけられているので、いかにも高そうな雰囲気です。Uさんは「高くないよ」と言ってたのですが、どのくらいのお勘定になるのか心配ですねぇ。
店内にはテレビもラジオもなくて、音楽も流れていないのですが、常連になると、店主と話したり、店のおねえさんと話したりしながら楽しむようです。
賀茂泉の燗酒をおかわりし、2品目を、あら煮にしりょうか、骨蒸しにしようかとちょっと迷って、あら煮を注文します。骨蒸しはおそらく鯛でしょうが、あら煮はおそらくいろんな魚のあらなんだろうな、と思ったのが迷ったポイントでした。鯛が食べたいという思いも強いんだけれど、あら煮の、燗酒によく合う醤油味にも強く引かれて、最終的にあら煮にしたのでした。
あら煮は、注文を受けてから作って出してくれます。やった! あら煮も鯛だ!
鯛のカブト(半身)を中心に、鯛の中骨、背びれ、胸びれ、尾びれのところを盛り合わせた一皿で、同じ煮汁で煮たらしき細切りの牛蒡(ごぼう)も添えられています。
関西風に煮汁は澄んでいて、味も薄味。しかしながら、薄味だからこそ逆によくわかる鯛の味わい。これはいい鯛だ。とくに背びれの下の、平目で言うとエンガワにあたる部分の、粒々(つぶつぶ)とした身がすばらしくうまい。他のところも、特に骨際(ほねぎわ)の身がおいしくて、つい夢中で、手で持った骨をしゃぶり尽くすように食べてしまう。カニとおんなじだな、こりゃ。
あら煮ながら、その身の量はひとりで食べるには十分すぎるほどで、途中で2本目の燗酒がなくなって、3本目は亀齢(きれい)をもらうことにします。先ほどの賀茂泉と同じく、亀齢もまた西条(東広島市)のお酒です。比べると、賀茂泉のほうが米らしいふくよかな感じが強くて、亀齢はすっきりとした淡麗な飲み口でしょうか。
3本目のお酒を飲み干すとともに、あら煮もきっちりと食べ終えて、いよいよ問題のお勘定です。
「ありがとうございました」と言いながら手渡してくれた勘定書きを、ドキドキしながら見てみると、なんとも拍子抜けの3,660円。料理2品(+お通し)と燗酒3合でこの値段なら、Uさんも言ってたとおり「高くない」というか、むしろ「出されるものの割りには安い」と言えると思います。
いやぁ、鯛が本当に美味しかった。どうもごちそさまでした。近いうちにまた来なきゃね。
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