〔コラム〕 西日本新聞「土曜エッセー」で“酒場浴”
本日(2012年6月16日)発売の西日本新聞朝刊の文化面「土曜エッセー」に、『万古不易な空間で“酒場浴”』という拙文が掲載されています。
老舗大衆酒場の、世代を経て変わらぬ空間に身を置きながら、ゆったりと酒と肴を楽しむ。仕事帰りに銭湯にでも寄るような感覚で、昔から変わらぬ空間にどっぷりと浸かって“酒場浴”。我われ呑兵衛にとっては、“温泉浴”や“森林浴”よりも癒し効果抜群ですね。
私自身、18~24歳までの多感な学生時代6年間を福岡で過ごしたこともあって、その福岡に本社を置く西日本新聞からの原稿依頼は、なんだかとっても嬉しい。
「福岡にいたころは、焼き鳥屋によく行ったねえ」
「そうそう。店に入ると、『いらっしゃいませーっ!!』と言いながら、太鼓をドーンドーンと鳴らしてくれるんだ」
「焼き台の横のほうには、黒じょかに入った湯割り焼酎が置かれてたりして、座るとすぐに、ザク切りのキャベツに酢をかけたお皿が出される」
「その上に、あいだに玉ネギを挟んだ焼き鳥を出してくれた」
「キャベツがなくなっても、どんどん足してくれる。キャベツはサービスだったから、焼き鳥よりも、むしろキャベツをたくさん食べながら飲んでたよなあ」
学生時代を福岡で一緒に過ごした友人たちと集まると、今でもそんな話が出てきます。
新歓コンパではじめて飲まされた芋焼酎の湯割りに、あっという間に撃沈。その後も飲んでは撃沈、飲んでは撃沈を繰り返しながら、ふと気がつくと、いつの間にか立派な呑ん兵衛に育っていたのでした。
仕送り前で金銭的に苦しい時でも飲みに行く。そんなときにお世話になっていたのが、大学の近くの屋台です。今と違って、当時は住宅街のあちこちで屋台を見かけるような時代でした。
コップ1杯(ちょうど1合分)の焼酎が120円。それとは別に空のコップをもう1個出してくれるので、屋台内に置かれたお湯のポットを使って、自分で焼酎の湯割りを作ります。
五分五分に割るとコップ2杯分のお湯割りができるのですが、我われの場合は、できるだけ長く楽しめるように、もうちょっと薄めに割って、コップ1杯の焼酎から、3~4杯分の湯割りを作る。
それに1本40円の焼き鳥を2本焼いてもらって、合計たったの200円で、友人たちと夜遅くまで議論に花を咲かせていたものでした。
ひとしきり飲み終えた後の楽しみは、うどんやラーメンなどの麺類で〆ること。24時間営業の立ち食いうどんのチェーン店「ウエスト」や、深夜までやってるラーメン屋台(「花山」など)が、下宿先のすぐ近くにあって、深夜だろうが明け方だろうが困ることがない。
丸天うどんに、ごぼ天うどん、余裕があれば、かしわにぎりももらう。酔った勢いで、ラーメンの替え玉競争もよくやりました。
そんな飲み方がすっかり板につき、この街がすっかり自分の街のように思えてきたころ、卒業して福岡を離れました。
焼き鳥屋に入ると太鼓が打ち鳴らされたり、酸っぱいタレのキャベツがどんどん出てきたり、焼き鳥の肉の間には玉ネギが一片ずつ刺さっていたり、24時間開いているうどん屋やラーメン屋でいつでも腹ごしらえができたり。
まったく当たり前と思っていたそんなことが、ほかの町にはあまりないことを知ったのは、就職して福岡を離れてからのことでした。
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