隠れ家風の本店2階で … 「豚の味珍(まいちん)」(横浜)
3年弱の呉への単身赴任から戻ってきてから、東京・横浜方面の古い酒場に足を運ぶことが多くなっています。
老舗酒場には、その町の、そしてその町で暮らしている飲兵衛たちの歴史が凝縮されているような気がするからです。
そんなわけで、今日も今日とて、やってきたのは、昭和20年代後半に屋台としての営業を開始し、昭和31(1956)年に店舗としての営業を開始した、横浜の老舗、「豚の味珍」です。
「味珍」は、横浜駅西口に残る古い小さな横丁、狸小路の真ん中あたりの両側にあります。通りの北側にあるのが本店、南側が新店。新店といっても、できたのが昭和53(1978)年なので、十分に古いですよね。
本店、新店ともに、1階の店と2階の店があるので、全部で4軒。この4軒がすべて賑(にぎ)わっているというのも「味珍」のすごいところです。
4軒の「味珍」は、それぞれに個性があって、常連さんたちは自分の行きつけの「味珍」が決まっています。
本店の1階は、店員さんが若いこともあって、だれでもがフッと入りやすい雰囲気です。ただし、カウンター席だけなので、ひとりか二人で行くとき向け。最初はまずはこの店をのぞくと、満席であっても他の店の空き状態も確認して、空いている「味珍」に案内してくれます。
3~4人のグループでも入れることが多いのが、新店の2階。ここが4軒の「味珍」の中で、一番広い「味珍」で、ぐるっと店内を囲むようなコの字カウンターの他に、4人用テーブル席も3卓ならんでいます。
「味珍」に取材をお願いすると、ほとんどの場合、この新店2階で撮影が行われますので、雑誌やムックなどで目にする「味珍」は、ほぼこの新店2階です。
4軒の「味珍」の中で、もっとも濃密な「味珍」を堪能できるのが、新店1階です。この店が4軒の中で一番狭くて、店内は鋭角に折れたV字カウンター8席のみ。そのV字の中に、店員さんひとりが、やっと入っているといった感じの狭さです。
なので、ここに入ると、お客全員が一蓮托生。みんなでいっしょに盛り上がっていくしかない状態になります。それがまたすっごく楽しいんだけど、残念ながら4軒のなかで、満席率がもっとも高いのも、ここ新店1階。いつ見ても満席で入れません。
4軒の中で、もっとも隠れ家風なのが、本店2階の「味珍」です。他の3軒は、ちゃんとそれぞれの入口がありますが、本店2階だけ、入口がない。本店1階に入って、店内にある階段を2階に上がったところが本店2階なのです。
ここをよく知る常連さんは、いきなり本店2階を目指しますが、そうでない人は、本店1階が満席のときに、「それじゃ2階にどうぞ」と案内されることが多い。だから、本店2階は、思いっきり常連さんと、一見(いちげん)さんに近い状態のお客さんが入り混じったおもしろい空間になります。
常連さん密度の高さでいうと、新店1階>本店2階>新店2階>本店1階といったところでしょうか。
私自身は本店2階に行くことが多い。濱の酒場通・iiさんが本店2階の常連さんなので、一緒に連れて行ってもらいながら、自分自身も本店2階に行くようになった、って感じですね。
まずは中瓶ビール(550円)をもらって、料理は豚の尻尾(700円)と辣白菜(ラーパーサイ、300円)を注文します。
すぐに出されるのは辣白菜。この店はお通しは出ないので、その代わりにこの辣白菜を注文して、他の料理が出るのを待つ常連さんも多いようです。
辣白菜は、ほんわりと甘い白菜の漬物。『辣』という字から、なにやら辛いものが出てくるイメージがありますが、そんなことはありません。
ラー油をたらして食べる常連さんも多いのですが、私は、練り辛子+酢+ラー油を混ぜたタレ(豚料理を食べるときのタレ)をつけながらいただく派です。
さあ来ました豚の尻尾。開店から間もない時間であれば、温かくて、とろける、できたての尻尾がいただけます。一度、このできたてを食べたら、病みつきになること請け合い。
この店の店員さんたちは、朝9時ごろからその日の仕込みに入り、みんなで4軒分をすべて作った後、それぞれの店で営業を始めるのです。で、閉店後、掃除も終わって帰路につくのは日付が変わってから。ほとんど寝る時間もないような状態でがんばってるんですね。
中瓶ビールを飲み終えて、次なる飲み物は「味珍」名物のヤカン(380円)。これは、宝焼酎マイルド(25度)。アラビアンな背の高い水差しで注いでくれるので、その水差しを称して、みんながヤカンと呼んでいるのでした。
カウンター上に置かれた梅エキスをちょっと入れると、梅割りとしていただけます。
元来は、この梅割りがもっとも主流の飲み方だったようですが、最近は常連のみなさんは、缶入りのウーロン茶とセットでもらって、ウーロン割りにして飲んでる人が多いようです。私は今日は梅割りでガツンと!
料理のほうは腐乳(150円)を追加。この腐乳が、豆腐の塩辛ともいえるほどの旨味としょっぱさで、酒が進んで進んで仕方がない。
あっという間に焼酎が空いてしまったので、最後に福島の地酒「自然郷(しぜんごう)」(500円)をもらって〆。今日のお勘定は2580円でした。どうもごちそうさま。
横浜駅周辺の歴史に触れることができる名店です。
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