琵琶湖産もろこの佃煮 … 「大甚(だいじん)本店」(伏見)
「すみません。これ、なんて魚?」
テーブルの横に立っている、お店のおねえさんにそう聞いてみると、
「モロコです。ほろ苦さがいいでしょう? 店主が自分で煮て作るんです。その辺のスーパーに売ってるのとは全然違いますよね」
と、とっても誇らしげなおねえさん。
近所のスーパーのモロコは知らないけれど、いま食べてるモロコは本当にうまいっ。
佃煮なのに1尾1尾がちゃんと独立していて、くっついていない。こんな小さい魚なのに、ほろ苦さも含めて、味わいがものすごく濃厚なんですよねえ。
しかも、店のおねえさんが、こんなにも誇らしげに語ってくれるのが、またうれしいではありませんか。
それだけで美味しさが100倍ほどアップします。
このモロコも、それと一緒に盛りつけられている川エビも、琵琶湖産なんだそうです。
今宵は、名古屋方面への出張の帰りに、名古屋は地下鉄・伏見駅近くの「大甚本店」にやってきました。
この店に来るのは、これで2回め。前回来たのは2007年3月ですから、実に6年半ぶりです。しかも前回は二人で来たので、ひとりで来るのはこれが初めて。ドキドキしますねえ。
店に着いたのは午後6時半過ぎ。入口の自動ドアをブィーンと開けて、
「ひとりです」と店内に入ると、
「おタバコはお吸いになりますか?」と入口近くの店員さん。
「いいえ、吸いません」
「じゃ奥の、テレビの手前のテーブルにどうぞ」
と、先に立って、その席まで先導してくれます。
店に入ったところで、パッと見渡した店内は、ほぼ満席。空席があるとは思えないぐらいの状態なのに、その店員さんについていくと、奥にはちゃんと空席がありました。
「お飲み物は?」
この店に来ると、まずは飲み物をたずねられます。
「小瓶のビールはありますか?」
「はい、お待ちください」
と言いながら、すぐに小瓶のキリンラガービールとコップを出してくれるおねえさん。
なにはともあれ、まずはビールですよね。
トクトクトクと、手酌でビールを注いで、まずはキューッと1杯。
ックゥ~ッ。この1杯がうまいのぉ!
ビールを1杯飲んで落ち着いたところで、席を立って、つまみを選びに行きます。
この店は、まるでセルフ系の大衆食堂のように、ずらりと並んだ、ひとり用の料理から、自分好みのつまみを選んでくる方式。
小皿が並ぶ大テーブルの横には、店主や店員さんが立っていて、料理を手に取ろうとしたり、「これなに?」と聞いたりすると、その料理が何かということを教えてくれます。
さらに、醤油などの調味料が必要な小皿を取った場合には、すぐに醤油の小皿などを席まで持ってきてくれるのです。客の行動を、よく見てるんですね。
私がまず取ってきたのは「きんぴらごぼう」と「きぬかつぎ」。
すぐに小皿の
「きぬかつぎにつけてお召し上がりください」とのこと。
(へぇ~っ。きぬかつぎに生姜醤油をつけるんだ。)
と思いながらやってみると、これがいける! でも、ビールよりは燗酒だな。
もともと、最初の喉潤しのために小瓶のビールをいただいていたので、ここですぐに燗酒(「賀茂鶴」樽酒燗、大徳利690円)を追加注文。
すぐに出された燗酒で、改めて生姜醤油の「きぬかつぎ」をいただきます。
きんぴらごぼうは、太めの「ささがき」にしたもの。キンカン(鶏の体内卵の煮物)が添えられてるのもいいですね。
店は入口近くが喫煙席、中央部のテレビに近いあたり(今いるところ)が禁煙席で、さらにその奥が座敷席になっている様子。2階にも同じような席があって、2階は2階で、小皿の料理がずらりと並んでいるんだそうです。
最初の2品を食べ終わったところで、次は刺身を食べようかと、テレビ下の席のすぐ近くにある「今日の魚料理」のガラスケースを見ると、さっきまでいろんな刺身が並んでいたのに、今はマグロの刺身しかない。
それじゃあと見に行った小皿置き場に、小さな、本当に小さな魚の佃煮があって、それがいかにも美味しそうなので、その小皿を取って席に戻ります。
値段は書かれていませんが、小皿はそれぞれ220~420円。6年半前と変っていないようです。
席に持ってきた小さな魚の佃煮を、1尾、
んんん~~っ。これは燗酒にぴったりだ。
「すみません。これ、なんて魚?」
と、この記事の冒頭でご紹介したような展開になったのでした。
「賀茂鶴」の燗酒を、今度は正一合(440円)でお願いして、もう一度、刺身置き場を見てみると、さっきより品数が増えていて、今度は盛り合せもありました。
「これください」
その盛り合せをもらうと、マグロ、イカ、タイ+タイ皮、ウニ、そしてハモ落としの豪華5点盛り。マグロ(東日本代表)も、タイ(西日本代表)も、ハモ(近畿代表)までもが一皿の中に盛り込まれているのが、名古屋の素晴らしいところですよねえ!
正一合の燗酒は、通常の燗酒(1合8
最後の〆にお新香でも持ってこようと、小皿置き場に行くと、残念ながらお新香っぽいつまみはありません。
「これはユリ根?」
「そうです。ユリ根ですよ」
そう答えてくれる、太い黒ぶちメガネをかけた年配の男性が、明治40(1907)年に創業したこの店の当代(三代目)店主・山田弘(やまだ・ひろし)さん(75歳)です。
ところで、この店の「大甚」という名称。私はいつも、頭の「だ」のところにアクセントを置いて、「だいじん」と発音してました。総理大臣などの「大臣」の発音と同じだと思っていたのです。
ところが。店内のお客さんたちの会話を聞いていると、「ひろしま」などの発音と同じように、「だいじん」と平坦。
そういえば、ここ「大甚本店」がある、地下鉄・伏見駅の「伏見」も、京都の「ふしみ」とは違って、名古屋は「ふしみ」と、どこにもアクセントがなく平坦です。
(へえ。そういうアクセントだったんだ。)
なんて思いながら、最後のひと口の燗酒をグイッと飲み干して、お勘定をお願いすると、
「はいよっ」と、大きな
この店では、飲み食いした瓶や徳利、お皿などはすべてそのまま置いておいて、その瓶や皿でお勘定する仕組みなのです。
「お刺身盛り合せ、これはちょっと値が張りますよお。すんません」
なんて言いながら、玉をカチャカチャと弾いていく。
「はい、お待たせしました。3,840円です」
どんだけ値が張るのかと思いきや、刺身盛り合せも含めて5品の肴に、小瓶ビールに、大徳利、小徳利と、けっこう飲み食いした割りには高くない。
ちなみに、毎日のように来てるように見える、地元の常連さんたちは、小皿を2~3皿持ってきて、大徳利を1本あけて、1,500円弱ぐらいで帰っているようです。さっきまで、ななめ向こうで飲んでたおじさんなんて、小皿1つで大徳利を1本あけて、910円のお勘定でした。
お勘定を計算した結果は自分の席で告げられますが、実際に支払うのは店の入口近くにあるレジのところ。ここに、賀茂鶴の樽酒も置かれています。
ゆっくりと、じっくりと、1時間半ほどの滞在でした。どうもごちそうさま。
「おおきに!」
という店主の声に見送られながら、店を後にしたのでした。
店内の雰囲気は「みますや」のようであり、料理やその値段は「斎藤酒場」のようであり、お
太田和彦さんも、その著書「居酒屋百名山
」の中で、ここ「大甚本店」のことを、
『酒、肴、居心地、歴史、そのすべてにおいて日本の居酒屋の頂点だ。「日本百名山」の頂点が富士山ならば、大甚は居酒屋の富士山と言えよう』
と大絶賛されています。近くにあったら、毎日のように通ってきたい酒場です。
きんぴらごぼう、きぬかつぎ / 刺身盛り合せ / 普通の徳利と正一合徳利
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