酒道を感じる老舗酒場 … 「伊勢藤(いせとう)」(飯田橋)

『酒道』というものがあるのならば、それがもっともしっくりとくる店は、ここ「伊勢藤」だろうなあ。
茶道や華道、柔道や剣道など、いろんな『道』があるけれど、この『道』というのは、日本の文化や伝統、習慣などを、形としてきっちりと表して、時代を超えて脈々と伝えていく方法と言えるでしょう。
この店には「白鷹」の燗酒(525円)しかない。どうしても燗酒が嫌いという人には、常温で出してくれます。焼酎はもちろん、ビールもありません。
L字カウンター席の内側は囲炉裏の間。ここに頭を丸めた三代目店主が、作務衣姿で正座し、注文を受けてお燗をつけてくれるのです。
「白鷹」の一升瓶から、チロリに注がれた酒は、囲炉裏の火の横に埋め込まれた3連の燗づけ器のひとつに入れられ、温められた後、丸っこい小さな徳利に移される。
この徳利をもう一度、燗づけ器の穴に入れて温めたあと、まわりの湯を拭きとって出してくれるのです。
遠くの席に座ると、専用の長い板の先に徳利をのせて、スゥ~ッと近くまで差し出してくれるのがおもしろい。
この燗をつける所作のひとつ、ひとつ、そしてそれをこちらに出してくれる所作にも『道』を感じるわけですねえ。
この丸っこい徳利から、盃台と呼ばれる、盃をのせるための専用の器の上に置かれた盃に、手酌で注ぐ。
酒を注ぐときは、盃をちょっと持ち上げたほうが注ぎやすいのですが、それを人に代わって持ち上げてくれるのが盃台なんですね。ひとりで手酌をするときにも、この盃台があると、とっても注ぎやすい。
酒の肴は考える必要なし。だまって座れば、季節ごとの一汁四菜の料理(1,575円)が出されます。
この一汁四菜の料理にも『道』を感じるんだなあ。
それぞれの料理は、酒の猪口くらいの大きさの器に盛られ、少量ずつ出されます。
たとえば今日は、タコわさ、アボガドの和え物、枝豆など。手間をかけた、日本酒によく合う料理なのがうれしい。
「豆の味が濃くて、すばらしい枝豆ですね」
そう店主に声をかけると、
「枝豆も、今年はこれで終わりぐらいです」
と店主。すばらしいコクの茶豆が、ぬる燗につけられた燗酒によく合います。
「伊勢藤」は、神楽坂・毘沙門天の向かい側にある、路地のやや奥のほうにあります。
駅で言うと、飯田橋駅と神楽坂駅の間あたり。距離的には飯田橋駅のほうが近いけど、店までずっと上り坂。逆に神楽坂駅からは、距離はちょっと遠いけど、ほぼ下り坂で行くことができます。大江戸線・牛込神楽坂駅からも同じぐらいの距離です。
昭和11(1936)年に創業。現在の建物は、昭和23(1948)年に、戦前の建物を復元する形で建てられたんだそうです。
燗酒をチビチビと飲みながら眺める、この店内の景色がまたいい。
白熱灯が薄暗く照らす店内は、昭和の風情たっぷり。畳がいい。障子がいい。ポッとそこだけ赤く照り輝いている炭火の明るさがいい。落ち着くよねえ。
『白玉の歯にしみとほる秋の夜の 酒は静かに飲むべかりけり』
これは若山牧水の歌ですが、この店はまさに静かに飲むお店。酔って声高になってくると、
「お静かに願います」
と店主から声がかかります。
「話すな」というわけではありません。「騒ぐな」ということなんです。
酒の席は公の場。酔いに甘えず、静かに過ごすことが要求されるのも『道』ですねえ。
「おかわりをお願いします」
3本めとなる燗酒をおかわりすると、店主から奥の厨房に、
「一のかわりをお願いします」
と注文が飛びます。
「はい~っ」という返事で出されるのは、これまた小さな器に、少量だけ盛られた干し納豆。これをポリポリとかじりながら、燗酒をいただきます。
「伊勢藤」では、燗酒2本までは、最初の一汁四菜のまま。3本めから、1本増えるごとに、1品ずつ、少量の酒の肴を出してくれるのです。
このとき、3本めのときが「一のかわり」、4本めが「二のかわり」、5本めが「三のかわり」ということで、それに対応した肴が、奥の厨房から届けられるのでした。
それでも肴が足りない人は、目の前に置かれた料理のメニュー(豆腐、納豆、味噌でんがく、丸干、たたみいわし、えいのひれ、皮はぎ、くさや、いかの黒作、いなご、明太子の11品)から、追加注文することも可能です。
常連さんらしきお客さんが追加注文したのは豆腐。豆腐と同じ大きさ、形に作られた食器に、ぴっちりと冷やっこが盛られていて、見た目にもおいしそう。
追加の料理は、それぞれ1品525円のようです。
3本めの燗酒も飲みきって、1時間半ほどの滞在。今日のお勘定は3,150円でした。どうもごちそうさま。
もっと足しげく通いたい「伊勢藤」ながら、平日(月~金)のみの営業で、午後8時半がラストオーダー。横浜勤務の私にとっては、行くこと自体がむずかしいのが残念なり!
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コメント
そうか、本当は伊勢藤ではなくて『伊勢道』という店名にしたかったのかな?でもこうすると、伊勢(神宮)へ繋がる道になるものね。
投稿: 大越龍一郎 | 2013.10.18 07:26