伊勢名物の『鮫たれ』。
鮫の身を垂らして干したことから、『鮫たれ』と呼ばれるようになったんだそうです。
軽く塩味がついているので、このまま食べても十分においしいのですが、添えられたレモンを搾りかけ、七味唐辛子や醤油をかけたマヨネーズをちょいとつけていただくと、燗酒が進むこと進むこと。
キュッと引き締まった、鮫の身の弾力感がいいんだな。
今宵は伊勢市にある大正3(1914)年創業の大衆酒場「一月家」(通称:げつや)にやって来ました。今年でちょうど創業100年を迎えたんですね。
店内の品書きには値段は書かれてないけど、みんな2品と3本で、2,500円ぐらいで引き上げていきます。
毎日のように来ている普段着の常連さん(つまり地元の人たち)が多いところから見ても、安心できる価格の大衆酒場のようです。
ここは太田和彦さんが、その著書や番組の中で『日本三大居酒屋湯豆腐』の一軒に挙げているお店。
盛岡の「とらや」、横須賀の「ぎんじ」、そしてここ「一月家」がその3軒です。
事前の調査によると、その『湯どうふ』に、『かしわきも煮』と『ふくだめ』(=とこぶし煮)を加えた3品が、この店の名物料理の様子。
店に入ってカウンター席に座るとすぐに、
「ビールの小さいのと、湯どうふ、かしわきも煮をお願いします」
と、その3大名物のうちの2品を注文したのでした。
すぐに生ビールの小ジョッキが出され、グイッとひと口、のどを潤しているうちに、サッと湯どうふが出され、追いかけるように、かしわきも煮も出されます。
湯どうふは、カウンター内の壁の後ろにある厨房から、皿にのせた湯気もうもうの状態で出され、それにカウンター内でたっぷりのカツオ節と刻みネギ、そしてこれまたたっぷりの醤油を回しかけたらできあがり。それをスッと客席に出してくれます。
おろっ? あんなにもたっぷりの醤油をかけたのに、ぜんぜん辛くない。むしろほわんとした甘みを感じます。そういう醤油なのか、あるいは出汁入り醤油なのかもしれませんね。でも、この湯どうふはたしかにうまいっ! 好みで一味唐辛子をかけていただきます。
かしわきも煮は、鶏のレバー(肝臓)とハツ(心臓)を醤油で煮冷ました一品。その冷えた状態のまま、小鉢に取り分けて出してくれるので、出が早いんですね。これもまた醤油のアジがまろやかで、おいしいなあ。
生ビールに続いて燗酒を注文すると、「一月家」という銘が入った、細長い白磁の徳利で出されます。これはいいですねえ。
すぐとなりの席に、いかにも常連さんと思しき男性ひとり客がやって来て、注文したのが生ビールと、この記事の冒頭でご紹介した『鮫たれ』だったのでした。
「鮫たれって、なんだろう?」
と思いつつ、となりに出される料理を楽しみに待っていると、その料理が出てきてみても、まだ何だかわからない。
「これは何なんですか?」
と聞いてみたところ、この料理が伊勢の名物であることなどを教えてくれて、さらに1切れ分けてくれたのでした。この鮫たれがあまりにも美味しくて、ビシッと私のストライクゾーンに入ってきたので、自分自身でも再注文したような次第です。
「湯どうふは注文しないんですか?」
その常連さんに、ついでに聞いてみたところ、
「ここの湯どうふも大好きなんですけどねえ。湯どうふを食べちゃうとそれで満腹になってしまって、他のものが食べられなくなってしまう。だから何回かに1回ぐらいしか注文しないんですよ」とのこと。
なるほど。そういえば「宇ち多゛」の常連さんにも、「煮込みは好きだけど、他のものが食べられなくなるから、何回かに1回しか注文しない」って方がいますもんね。それと同じなんだ。
燗酒を3本いただいて、そろそろ終了にするかな、と思っているところへ、常連さんから、
「ここに来たら、焼酎の抹茶割りも飲んでいかなきゃ」
と教えてくれて、最後にそれを1杯もらうことにします。
この抹茶割り、なんと20度の焼酎のロックに粉末の抹茶を溶いたもの。濃いこと濃いこと。
「濃ければ、水も出しますよ」
と女将のマスミさん(他に大女将も居ます)。まわりを見ると、みなさん抹茶割りと、チェイサーの水をもらっているようなので、私も水をいただきました。これがこの店の標準的な飲みもののようです。
午後8時34分というのが、この近くのバス停の、終バスの時間なんだそうで、多くのお客さんたちがそれを目指してお勘定をしていきます。
そのお勘定の波が過ぎたあと、8時45分ごろ、私もお勘定をしてもらいます。
注文したお皿やジョッキ、徳利などは下げずに置いておいて、それでお勘定をする仕組み。大きな算盤でチャチャチャと計算してくれて、今日のお勘定は3千円でした。
店に入ったのは、5時半過ぎ。初めての店にもかかわらず、3時間以上も、くつろがせてもらいました。
『一月家 「やあやあ」と言う 友ができ』
というのは、店内の色紙にある一句。地元の人たちの憩いの空間なんですね。本当にいい酒場だと思います。
朝食: 呉「森沢ホテル」で和朝食をいただいてチェックアウト。仕事の関係で津(三重県)に向かう。
昼食: 新幹線で名古屋までやって来て、そこから近鉄に乗り換えて津へ。車内で「天むす」(670円)を食べる。これは天むすの元祖を謳う、三重県津市の「千寿」のもの。小さいおむすびが5個に、キャラブキの佃煮。箸はなくて、お手拭きがついていて、手づかみでいただく仕組み。
夕食: 仕事を終えて、太田和彦さんが『日本三大居酒屋湯豆腐』の一軒に挙げている、伊勢の大衆酒場「一月家」へ。この店の名物らしい、湯どうふ、かしわきも煮、ふくだめの3品をいただく予定が、となりの常連さんに鮫たれという伊勢名物を教えてもらい、ふくだめの代わりに鮫たれにした。居心地よし!
ちなみに、私の『三大居酒屋湯豆腐』は、横浜・野毛の「武蔵屋」、呉の「森田食堂」までは決まってるんだけど、3軒めがふらついています。
迷いに迷っている3軒め候補は、木場「河本」、渋谷「富士屋本店」、立石「ゑびすや食堂」、横浜・杉田「はまや食堂」、御徒町「佐原屋」、横須賀「中央酒場」、呉「本家鳥好」(スープ豆腐)の7軒。
今回の「一月家」も加えて、いっそ『十大居酒屋湯豆腐』にしようかなあ。。。
「森沢ホテル」和朝食 / 「千寿」天むす / 「一月家」店内の様子
湯どうふ、かしわきも煮 / 鮫たれ / 焼酎の抹茶割りと水
・「一月家」の店情報
《平成26(2014)年12月1日(月)の記録》
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