
明日が祝日という水曜日。仕事帰りに雑司が谷の人気もつ焼き店、「高松屋」にやってきた。
店に到着したのは午後6時半過ぎ。
開けっ放しの入口から見える店内は、奥の小上がり(4人座卓×2)までは見えないものの、少なくとも手前のカウンター席(12席)は満席に見える。
でも、せっかくここまできたので、念のため店内をのぞいてみることにする。
「こんばんは。ひとりです」
店を切り盛りしているのは、以前と変わらず、焼き台を担当する親父さんと、焼き台以外のすべてを取り仕切る息子さんのお二人。
前回(3年前)に来たとき、親父さんが85歳だったから、今は米寿(88歳)だろう。変わらずお元気そうだ。(←その後の顛末: 親父さんは昭和4(1929)年生まれの87歳。来年(2017年)、米寿を迎えるそうです。)
「おひとり? あるものだけでいいですか?」
「ええ、あるものだけでいいです」
「じゃ、こちらへどうぞ。すみません、ちょっと寄って、ここにひとり入れてもらえますか」
息子さんがそう案内してくれながら、両側のお客さんにも声をかけてくれる。
おぉ~っ。満席に見えてたのに、ここに1つ、空席が隠れていたか!
両側のお客さんが、ズズッとずれてくれて、その陰に隠れていた四角い椅子が現れた。
でも、けっこうギリギリの幅しかないなあ、と思っていたら、
「私がちょうど帰るところなので、ゆっくりと座ってください。お勘定お願いします!」
と左どなりのお客さんが席を立ってくれて、逆にものすごくゆったりと座れることになった。ありがとうございます。
「飲みものは?」
「ビールをください。キリンで」
大瓶ビールは550円。10年前に最初にやってきたときから、値段が変わっていない。
銘柄はキリンラガーとサッポロ黒ラベルが選べる。
もつ焼きの値段も1本120円(壁の品書きには5本600円と書かれている)と変わっていない。これはすごいことだなあ。
「焼きものは順番が来たら伺いますので。少し時間がかかります」と息子さん。
そうだった、そうだった。親父さんが1回に焼くのは、客ひと組分のもつ焼きのみ。だから、焼き台の上にはいつも5~6本のもつ焼きしか置かれていない。
その5~6本のもつ焼きを、まさに『全身全霊の力を込めて』といったオーラを放ちながら焼きあげてくれるのである。
焼き台に新たなもつ焼きがのった時点で、息子さんが、その次の順番のお客さんから注文を聞いてくれる。
息子さんから「なにを焼きましょうか?」と聞かれるまでは、お通しとして出される塩豆をポリポリかじりながら、黙って飲みながら待つのがこの店の流儀。
どのお客が、どの順番で入ったのか。息子さんはそれをよく覚えていて、正しくその順番で聞いてくれるのだ。
塩豆だけでは待ちきれない人は、息子さんが作ってくれるトマトやキュウリ(たぶんそれぞれ350円)、冷ヤッコ(250円)であれば、いつでも注文することができる。
親父さんが焼き終えたもつ焼きをお客に出し、焼き台の後方に次のお客用にスタンバイされているもつ焼きを焼き台の上にのせる。
そのタイミングで、息子さんがその次のお客さんの注文を取る。
「なにを焼きましょうか。タンが品切れになっています」
この店のもつ焼きはレバ、タン、ハツ、カシラ、シロ、ナンコツの6種類。
以前は、これとは別にコブクロ(1本180円)というのもあったんだけど、今はコブクロはないようだ。
でも、「あるものだけでいいですか」と聞かれた割りには、ないのはタンだけなんだね。それなら十分だ。
……と、そのときは思ったのだが……。
その次のお客さんのときも、タン以外の5本から選べた。
さらにその次のお客さんが、レバ、シロ、カシラを注文したところで、なんとこの店の一大名物であるシロが品切れとなった。
ありゃあ、残念。シロは絶対に食べたかったんだけどなあ。
この時点で、店の表の赤ちょうちんの灯りも消された。
そろそろ大瓶ビールを飲み終えるかというタイミングで、私の注文の順番がやってきた。
さっきシロが売り切れた人の、次の順番だった。あぁ、あと1人分早ければ、シロに間に合ってたか。ますます残念。
「お待たせしました。なにを焼きましょう。あるのはレバ、ハツ、カシラ、ナンコツの4種類です」
「その4種類を1本ずつお願いします。レバはタレで」
「は~い」と、冷蔵庫の中からその4本が取り出され、焼き台の大将の後ろの台上にスタンバイされる。あの台の上が、ネクスト・バッターズ・サークルなんだね。
「ナンコツがこれで終わりです」
おぉ。私が注文したナンコツが、ラスト1本でしたか。
私の注文した4本が出てきたタイミングで、キリンラガー大瓶(550円)をもう1本、おかわりした。
ここのもつ焼きは、1本1本が大きいのが特徴だ。縦方向は、他のもつ焼き屋のものと同じぐらいなんだけど、幅方向が広いんだな。上から見ると、葉っぱの形のように横に広がっている。
タレ焼きはそのまま、あるいはちょっと一味唐辛子を振りかけていただく。
塩焼きで注文したもつ焼きには、小皿で辛ダレが添えられる。お好みで、この辛ダレをつけながらいただくのだ。
こうして最後に入った私のもつ焼きが焼きあがったところで、他の人たちも自由に注文していい状態になる。
客の側から見ると、親父さんの後ろの焼き台(ネクスト・バッターズ・サークル)に、次の品が置かれていないことが、「追加注文してもいいよ」というサインになる。
「すみません。もつ焼き、たのんでいいですか」
と聞きながら注文しているお客さんが多い。
2~3人が追加注文したところで、ハツとカシラも売り切れて、あとはレバのみとなった。もつ焼き以外にシシトウ、シイタケ、ネギという野菜串もある。
表の赤ちょうちんが消えていても、常連さんたちは入ってくる。
「今日はレバしか残ってないですよ」と迎える息子さんに、
「うん。じゃ、レバを2本、タレで焼いて」なんて注文をしている。
遅い時間の「宇ち多゛」で、レバとシロしか残ってなくても、やっぱり「宇ち多゛」で飲みたいように、ここ「高松屋」の常連さんは、レバしか残ってなくても、やっぱり「高松屋」で飲んで帰りたいんだろうな。
飲みもののほうは、ビール大瓶(550円)、清酒二級(350円)、冷酒(400円)、ウーロンハイ(400円)、ハイサワー(400円)、ウイスキー(400円)、コーラー(250円)という7品のみ。チューハイやホッピー、焼酎梅割りなどはない。
今夜、改めて観察してみた結果、常連さんたちに人気があるのは、清酒と冷酒のようだ。
清酒のほうは燗酒か冷や(常温)でもらう。冷酒は、冷凍庫でシャリシャリに凍らせた凍結酒だ。
もつ焼きを食べ終えたところで、その日本酒を冷や(常温)でいただいて、つまみには冷ヤッコ(250円)をもらう。
日本酒は、受け皿付きのコップに、受け皿まであふれるぐらいまで注いでくれる。
冷ヤッコを注文したのには、わけがある。もつ焼きに添えてくれた小皿の辛ダレが余っているので、これで豆腐を食べてみようと思っているのだ。
豆腐を箸でひと口大に切り分け、刺身に醤油をつけるような感じで、ちょっとだけ辛ダレをつけていただく。
ん~~っ。予想どおり、これはうまいっ!
ゆっくりと2時間弱の酒場浴。今夜のお勘定は2,180円でした。どうもごちそうさま。

「高松屋」 / 塩豆とビール大瓶 / ナンコツ、カシラ、ハツ、レバ

冷ヤッコ / 清酒二級(冷や) / 冷奴はもつ焼き用の辛ダレでいただく
・店情報 (前回)
《平成28(2016)年9月21日(水)の記録》
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