アワビのトシロって? … 「とんぼ」(釜石)
釜石に来たのは今回で3回め。
今回は釜石駅前の商業施設、「サン・フィッシュ釜石」の2階にある酒場、「とんぼ」にやって来た。
開店時刻の午後4時に到着したんだけど、まだ開いていないようで、店内に暖簾があるのが見える。
ちょっとだけ開いてる入口引戸から店内を覗き、L字カウンターの中で支度をしている女将さんと思しき女性に、「まだですよね?」と確認してみると、「すいませんねぇ、もうちょっとかかります」という返事。
『それじゃ、ちょっと一回りして、また戻ってこよう』と「サン・フィッシュ釜石」の中を見て歩く。
「とんぼ」の並びには、酒と食事の「井華水」や、スナックの「ヴィヴィアン」、「フェニックス」などが並んでいる。
ここ「サン・フィッシュ釜石」の前身は、かつて釜石駅近くの橋の上にあった「橋上市場」。
1958年(昭和33年)に作られた橋の上に、戦後の闇市で営業していた商店が集められたのが始まりだった。
その後、1996年(平成8年)に橋の老朽化による橋の架け替えと市場の移転・撤去が決まり、2003年(平成15年)に、「橋上市場」に代わる「サン・フィッシュ釜石」がオープンしたのでした。
とそこへ、さっき写真を撮ってるときにすれ違った男女二人連れの男性がやってきて、「店を開けるからどうぞって!」と教えてくれた。
すぐに引き返して入った「とんぼ」の店内は、L字のカウンター席と、奥にテーブル席が1卓。
さっきの男女二人連れがカウンター席に座っていたので、そのすぐ奥に座らせてもらった。
実はこのお二人が、毎日のように来られている地元の常連さんなんだそうで、このお二人に押し切られる形で開店となった。
そして女将さんに「さっきの人も呼んできて」と言われて、わざわざ連絡しに来てくれたんだそうな。本当にありがとうございます。
ここ「とんぼ」には飲み物のメニューしかなくて、料理はすべて女将さんにおまかせとなる。
カウンターの中の棚に、キープボトルがずらりと並んでいるところを見ると、多くの常連さんが焼酎やウイスキーのボトル(2,500~3,500円)をキープしているようだ。
まずは「生ビール」(600円)を注文すると、女将さんに「嫌いなものはありませんか?」と聞かれたので、「ありません」と即答。
あとで他のお客さんとの受け答えを見ていると、この時点で、「今日は○○はあるの?」といった感じで、自分の食べたいものをリクエストすることもできるようだ。
すぐ出されたのが、野菜たっぷりのポテトサラダ。
これが美味しくて、一品目にしてグッと胃袋をつかまれてしまった。
すると、再び女将さんから「アワビのトシロは食べられますか?」という質問が来た。
「トシロ? 何ですか、それ?」と聞き返すと、
「アワビの肝なんですよ」と女将さん。
「なんと! モツ類はすべて大好きです。ぜひお願いします!」
「はいはい、どうぞ」と出してくれたアワビのトシロがこれ。
アワビの肝は、実は生殖腺。白いのがオスの精巣、緑色がメスの卵巣だ。
アワビ1つから、肝は1つしか取れないんだそうな。
特に味を加えず、アワビ自体が持っている塩味で食べるのが、女将さんのおすすめの食べ方だ。
ックゥ~~ッ。旨いねぇ。
これには絶対に熱燗だ。さっそく釜石の地酒「浜千鳥」の「純米酒(2合)」(1,200円)を熱燗でお願いした。
アワビのトシロを追いかけるように、切り干し大根煮も出してくれた。
実際に東北の料理を食べる前は、『東北の料理は塩っ辛い』という先入観があったのだが、八戸で食べても、石巻で食べても、塩釜で食べても、決してそんなことはなかった。
出汁の旨みがよく効いた、とてもやさしい味付けなのだ。
この切り干し大根煮も、まさにそんな味付けだ。
さぁ、「浜千鳥」の熱燗もやって来た。
どーれどれ。
ウゥ~~~ム! やっぱりアワビのトシロには熱燗だ。思わず、うなってしまうほど旨いっ!
その感想を女将さんに伝えると、「あらそう! じゃ、もうひとつどうぞ」と、さらにもう一皿、アワビのトシロを出してくれた。
「えぇ~~っ、これから来られる、他のお客さんの分がなくなっていいんですかぁ?」
と言葉の上では遠慮しつつも、大喜びで二皿めのアワビのトシロを受け取った。
入店から小一時間が経過し、店内のお客さんも増えてきたところで、『満を持して』という感じで、みんなに出してくれたのが「刺身盛合せ」だ。
盛られているのは、スルメイカ、マダコ、カジキ、マグロの4種。
1種類が4切れずつ(細切りのイカはもっと多い)と、ボリュームもたっぷりなのがいいですねぇ。
釜石の目の前が、親潮と黒潮が交錯する世界屈指の三陸漁場。だから釜石では漁業も盛んなのです。
最初の熱燗2合も残りわずかとなり、おかわりをお願いすると、次なるつまみとして「鯨刺」を出してくれた。
合わせる薬味は、おろし生姜。
この鯨刺、量も多い(7切れ)し、肉の厚みもあって、食べ応えがある。
しかもこの鯨、ほとんど噛む必要がないほど軟らかいのも素晴らしい。
小学校の頃に給食で出されていた鯨肉は、筋張っていて、いくら噛んでもなかなか飲み込めなかったのになぁ。まさに『隔世の感』である。
さらに出されたのはイカゲソのイカワタ煮。
これまたイカワタの旨みが強くてすごいっ!
女将さん、呑兵衛のツボをビシッと押さえてますねぇ!
「俺の焼酎も飲みなよ」
となりの席で飲んでいる、開店の時にわざわざ呼びに来てくれた常連さんが、そう言いながら、自分の麦焼酎「くろうま」のキープボトルをこっちに渡してくれた。
すると、すぐに女将さんが氷入りのジョッキも出してくれたので、それにたっぷりと焼酎の水割りをいただいた。
入店してからずっと、となりの常連さんに、この店に関わるいろんな話を伺っていたのだ。
となりの常連さんは、地元・釜石の漁師の息子で、現在70歳。
親の跡はお兄さんが継いだので、ご自身は名古屋で働いていて、60歳で定年退職してからこちらに戻ってきたんだそうな。
それから10年、今ではすっかり地元に根付いているとのこと。
地元の常連さんが多い酒場に間違いはないですね。
ゆっくりと、たっぷりと3時間も楽しんで、ちょっとドキドキしながらお勘定をお願いすると、なんと! 驚きの4,500円。
『いただいた内容から考えて、いくらなんでも安過ぎるやろ!』と思いつつもお支払いを済ませて店を出ると、入店するときには出ていなかった暖簾も出てるし、左右の提灯にも灯がともっていた。
いやぁ、美味しかった、楽しかった。どうもありがとうございました。ごちそうさま。
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