初めての北海道、初めての札幌である。
そして札幌に来たらぜひ行ってみたかった酒場がここ、「第三モッキリセンター」だ。
酒友・にっきーさんが、5年半ほど札幌に単身赴任されていたときに、『この店に通いたいから』という理由で、このすぐ近くに居を構えていたほどの酒場なのだ。
にっきーさんの行きつけの酒場と言えば、中野の「パニパニ」や「石松」、そして下井草の「GOTEN'S BAR」に「御天」。博多に単身赴任されている今は中洲の「酒一番」だ。
もちろんそれ以外の数多くの酒場にも通われているのだが、芯となる拠点酒場とも言える店がカチッと定まっていて、それぞれが素晴らしい酒場なのである。
だから、にっきーさんが札幌に赴任されてる間に、ぜひ1度、「第三モッキリセンター」にも来てみたかったのだが、残念ながらそれはかなわなかったのでした。
「ひとりです」と入ると、「こちらにどうぞ」と案内されたのは、店の奥に向かってとっても長いコの字カウンターの、ど真ん中の席。
えっ! 初めて来たのに、こんな席に座らせてもらっていぃ~んでしょうか!
驚きながらも大喜びでその席に座らせてもらい、まずは「サッポロ ヱビス 大瓶」(726円)を注文した。
改めてメニューを確認すると、北海道だからと言って特別変わった飲み物があるわけではなくて、ビールから日本酒、焼酎、ワインにチューハイ、ウイスキーなど、たいていのものはそろっている。ホッピーまであるのがいいよね。
それに対して料理のほうは、ぼうだら煮、身欠にしん、ザンギ、ほっけ焼き、鮭とば、などなどの、いかにも北海道! といった感じの料理が並んでいる。これは楽しみだ。
そんななか、1品めのつまみとして注文したのは「ぶたもつ煮」(440円)。
まずは自分が大好きな『もつ煮込み』をいただいて、はやる気持ちを落ち着けよう。
みそ味の「ぶたもつ煮」は、根菜類やコンニャクも入っていて、コクのある味わい。
まわりから聞こえてくる会話は、なんのクセもなくて、感覚的には首都圏の酒場で飲んでいるのと変わらない。
日本各地の酒場に行くと、その地方の方言がバリバリと聞こえてくるのもいいものなんだけど、札幌の言葉はかなり標準語なんですねぇ。
最初の「ぶたもつ煮」でほっこりとした気持ちになったところで、2品めには「鮭とば」(363円)をもらった。
すぐ右手で飲んでいるサラリーマン2人連れがつまんでいるのが、いかにも美味しそうに見えたので、「それなんですか?」と聞いたところ、「鮭とばです」と教えてくれたのだ。
「ありがとうございます」とお礼を言って、すぐさまそれを注文した次第。
「鮭とば」は、開いた鮭を皮付きのまま細切りにし、潮風に当てて干した北海道の珍味。
スルメのように硬いので、スルメのように少しずつ噛みちぎりながらいただきます。
最初がちょっと塩辛くて、噛むほどにジワジワと鮭の旨みが広がってくるのがいいよねぇ。
こりゃあ間違いなくいいつまみだ!
「サッポロ ヱビス 大瓶」を飲み切って、続いては「樽ハイ倶楽部 メガサワー」(594円)をもらった。
とそこへ、すぐ左どなりに、いかにも大常連と思しき男性ひとり客が座り、「サッポロ ヱビス 大瓶」と「雪印チーズ」(220円)でスタートした。
そうそう。チーズを注文しているお客さんが多いのも、ちょっと気になっていたのだ。
その大常連のJさんは、この店に通って35年になるそうで、後でわかったことだが私と同い年だった。
「ん? 今日はエアコンが入ってるねぇ。夏場に冷房が入るようになったのは、ここ数年なんだよ。それまで冷房なんてなかったんだから」というJさんの話を伺いながら、3品めのつまみとして「にしんきりこみ」(330円)を注文した。
改めてエアコンを見てみると、カウンターの先っぽに座っている私の右後方に1台、店の奥の左手に1台、家庭用ぐらいの小さいエアコンが付いている。
こんなに広い店内を冷やすのに、こんな小さなエアコン2台でいいんですねぇ。さすが北海道だ。
しかもさっきのJさんの言葉を裏付けるように、それら2台のエアコンは、まだピッカピカの新品だ。
「ホッケの半身があるのもいいところなんですよ」と、Jさんにオススメいただいて注文したのは、「ほっけ開き焼(半身)」(385円)である。
卓上のメニューには「ほっけ焼き(1枚)」(660円)しかないのだが、壁の短冊メニューには『半身』があるのだ。
同様に「ザンギ」も、通常の『4個』(594円)に加えて、『ハーフ2個』(352円)もあったりする。
壁の短冊メニューも気をつけて見ておいたほうがいいってことですね。
出てきた「ほっけ開き焼(半身)」は、なんとすごく小さい!
こんなに小さいホッケは東京では見たことがない。
しかしながらこの小さいホッケ、身が厚くて旨みが強いこと!
「すぐ近くに市場があって、そこで仕入れてるんですよ。昔からこの大きさ。小さいけど美味しいでしょう!」とJさんも大絶賛だ。
東京で食べる大きいイワシと、呉で食べる小イワシの旨みの違いと似てるよね。
そんなJさんが、「店が混む前に」と注文したのは『大五郎の水割り』と『さば煮の尻尾』だ。
『大五郎の水割り』というのは、「大五郎 グラス1合」(253円)を水割りセットでもらうこと。
グラス1合の「大五郎」と一緒に、無料で提供されるのは、アイスペールいっぱいの氷と、ウォーターピッチャーの水、そして水割りを作るための、ちょっと大きめのグラスだ。
このグラス1合の「大五郎」が、表面張力いっぱいまで注がれているのがすごいよねぇ!
この状態を『モッキリ』、つまり『盛りきり』と言うんだそうな。
酒屋の店先で始めた「角打ち」が、「第三モッキリセンター」の原点。
グラスに盛りきりで出す酒で商売をしていたから、その店名が「モッキリセンター」となったらしいのだ。
この『モッキリ』のグラスから、最初の1杯分の焼酎を、水割り用のグラスに注いでも、1合グラスの焼酎はまだ8割ぐらい残っているではありませんか!
これに氷を入れて、水を入れて、『大五郎の水割り』のできあがりだ。
ちなみに、この一連の『大五郎の水割り』の写真は、Jさんにならって、私自身も注文した「大五郎 グラス1合」(253円)の水割りセットによるもの。
「大五郎」はグラス1合の他に、2.7リットルのペットボトル(3,795円)もあって、これをボトルキープしている人も多いようだ。
2.7リットルというと15合分。ボトルの値段も「大五郎 グラス1合」(253円)のちょうど15杯分だ。
『大五郎の水割り』に合わせて注文したのは「身欠にしん」(440円)。
「身欠にしん」はニシンの干物のことで、冷蔵技術がなかった時代に、日持ちがしないニシンを長持ちさせるために、内臓や頭を取り除いて乾燥させる方法が生み出されたんだそうな。
「鮭とば」と同じく、見た目はすごく旨みが強そうなんだけど、実際に食べてみると、これが意外に淡白な味わいだ。
なるほど! だから味噌が添えられているのか。
この味噌と一緒にいただくと、ちょうどいい感じの旨みになった。
けっこう長持ちしたグラス1合の『大五郎の水割り』も、そろそろ終わりが見えてきたなぁ。
ところで、Jさんが食べていた「さばの味噌煮」(462円)。Jさんが通い始めた35年前から、ずっと変わらないんだそうな。
Jさんは、この「さばの味噌煮」の尻尾側が好きなので、いつも『さば煮の尻尾』と注文してるんだって。
「3年前に二代目が亡くなってねぇ。三男が三代目を継いだんだ。ここで飲むと安いのに美味い! これが自分が35年間、通い続けてる理由かな」と笑顔で話してくれるJさん。
『さば煮の尻尾』を食べ終えると、1,600円ぐらいのお勘定を支払って、「またこの店で会ったらよろしく」と帰っていった。『深酒しない』というのも、毎日のように通うことができる条件かもね。
最後は「フライドポテト&チーズ」(440円)で締め括りたかったんだけど、もうそこまでは入りそうにない。
ちょうど切りよく料理も食べ終え、お酒も飲み終えたので、今宵はここまでとした。
ところが! Jさんが帰った直後に満席になった店内は、ホール担当の二人の女性が大忙しの状態になってしまい、新たに入店してきたお客さんも、じっと座って注文するのを待っているほど。
お勘定をしたい私も、あわてず焦らず、席でタイミングを待った。
なるほどなぁ。Jさんが「店が混む前に」と言ってたのはこのことだったのか。だから満席になるちょっと前のタイミングを見計らって、サッとお勘定を済ませて帰っていったんですね。さすが大常連さんだ。
まわりのお客さんが食べてる料理を観察したりしながら、ゆっくりと15分ほど待ってのお勘定は、10円未満の端数は切り捨てとなって、3,530円なり。
にっきーさんと一緒に「第三モッキリセンター」に来ることはできなかったけれど、その代わりとも言える大常連のJさんに、いろいろとお話を伺いながら飲むことができて、今日は本当に良かった。どうもごちそうさま。
次はいつ来ることができるだろうなぁ、北海道。
・店情報 《YouTube動画》
《令和6(2024)年7月10日(水)の記録》
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